Gull watcher’s depression!
お濠でカモメたちを見ていて、常に気を使って探しているのは背の色の薄い個体です。
これにはもちろんカナダカモメ、アイスランドカムリーン、スミス(アメリカセグロカモメ)、ワシカモメ、そしてシロカモメも該当するわけで、背の色の薄さを見分けられることが出来るということは、いずれにしても少数派であるこれらの個体を背の色で見つけられるということになります。
背の色の薄い個体を見つけることは、それこそカモメ観察における醍醐味なのであり、視界の中に入ってきた時には胸が高鳴ります。それはもうワクワクしてしまうのです。まさに魅惑的な薄青灰色の背中なのであります。
ワシやシロはわかりやすいのであまり迷うことはないのです。が、いざ初列パターンを見てみるとカナダやカムリーンらしいものではないということになるとちょっとややこしいことになるのです。それではスミスかとなるわけで、はっきりと淡色の瞳で嘴に黒斑があれば、まぁ、その可能性が高いのですが、暗色の瞳だったり、嘴に黒斑がなかったりすると、こりや、いったいなんだ!という個体になってしまう。そういう個体を毎季いくつか見つけることになります。
そういった個体には、これは実はカナダじゃないのだろうか?と思えるような、雰囲気的にそういった背の薄い典型的な種の雰囲気をもっているものもいますが、全く違う雰囲気を醸し出している個体もいるのです。ほとんどvegae なのに背の色だけが明確に薄く青っぽいなど、という個体たちです。
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そうなってくると、どうしてもちょっと気になってくるのが“birulai” という存在なのです。
この“birulai” というのは 、“OLSEN GULLS OF EUROPE, ASIA AND NORTH AMERICA” では、“GEOGRAPHICAL VARIATION” の項目に記述されています。
(western population sometimes treated as subspecies ‘birulai’) In western part of range (W Taimyr to NW Yakutia) legs in breeding season vary from bright yellow to fleshy; legs always pink in eastern part of range, yellow only in western part of range.
Palest mantled birds appear at northernmost part of range, darkest to the W (western Taimyr but large part of population here susupected to be hybrids with Heuglin’s Gull) and to the E (Chukci Peninsula). Western birds generally with more black in wingtip (smaller white mirror in P10, more extensive black in P4-5). In winter usually whiter with dark restricted to hindneck streakes.
西方の個体群は時々亜種“birulai”として扱われる、と。
東方部分の常に足がピンク色であるのに対して、西方の部分(西タイミルから北西ヤクーチア(サハ共和国?))では、繁殖期においては鮮やかな黄色から肉色に変化する。
肩羽のもっとも薄い個体は最北部で見られ、もっとも黒いものは西方(西タイミル、ただし、ここの大部分の個体群はHeuglin’s Gull との交雑個体だと疑われる)と東方(チュクチ半島)。
西方の鳥たちは、一般に、P10のミラーが小さかったり、P4-5の黒斑がより広いなど、初列の黒い部分が多い。冬季、後頸の縞に限定された暗色斑で、より白いのが普通である。
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とまぁ、こんなところでしょうか。
西方の肩羽が黒い個体郡は、記述にあるようにホイグリンとの交雑個体であるタイミルということで、最後の初列に黒い部分が多いというのもホイグリン譲りのタイミルたちの特徴と合致します。そして気になるのは、あまりはっきりとしないのですが、西方でもより北の地域で見られる、もっとも背が薄く、足が黄色から肉色の個体郡の存在になります。
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そして、より新しい図鑑、“OLSEN GULLS OF THE WORLD” でも、“Geographical variation” の項目に、しかし名称が少し変化していて “Ssp. birulae” として記述されています。
Ssp. birulae
(NW Taimyr to New Siberian archipelago).
Smaller and lighter than vegae with rounder head and slightly longer wings. Adult has slightly paler, colder grey upperparts (Kodak grey scale 5.5-7, palest in north-east), but wing-tip with more extensive black, smaller white mirror to p10 and more solid black markings in p5. Winter head markings generally weaker, often reduced to streaking in hindneck. Legs pale flesh, less bright than in vegae, and sometimes yellow. Eyes generally paler. Adult moult to winter on average one month earlier than vegae, finishing primary moult late Nov-late Dec.
亜種 birulae
(北西タイミルからノヴォシビルスク諸島)
vegae より小さくより明るく、丸い頭でわずかに翼が長い。成鳥は上面がわずかに薄く低温な灰色(kodak grey scale 5.5-7、もっとも薄いのは北東のもの)であるが、初列の黒い部分はより広範囲であり、P10のミラーはより小さく、そしてP5の黒斑はより濃い。冬季の頭部の褐色斑は一般的に弱く、たいてい後頸の縞模様は減らされている。足は薄い肉色であり、vegae よりも鮮やかさに欠け、そして時々は黄色である。目は一般的に淡色。
成鳥の冬羽への換羽は、平均してvegae よりも一ヶ月早い。初列の換羽が終了するのは11月末から12月末である。
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と、いうことなのですが、これはちょっと、んんっ?という感じですね。
背が少し薄く、一方で初列の黒が多く、冬場の褐色班があまりなくて換羽が早いということだと、より小さいという部分を除けばモンゴルじゃないの?という具合です。ちょっと思っていたものとは違う感じではあるのです。
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ちょっと、違う図鑑をと、探してみると“THE PETERSON REFERENCE GUIDE SERIES GULLS OF THE AMERICAS”にも少し記述がありました。
Vega Gull
Western populations of vegae may average slightly paler above and are sometimes separated as the subspecies birulai (breeding from New Siberian Is. west to Taimyr Peninsula ). Dement’ev and Gladkov considered individual variation too great to warrant recognition of birulai. The taxon mongolicus ( breeding in e, cen.Asia ) is sometimes included with Vega Gull, in which case L. vegae may be called East Siberian Gull. Vega Gull has also been treated as conspecific with Slaty-backed Gull.
vegae の西方の個体群はおそらく平均してわずかに上面が薄く、時々、亜種birulai に分けられる(ノヴォシビルスク諸島から西タイミル半島で繁殖)。Dement’evとGladkovは個々のバリエーションがあまりにも大きいと考えてbirulai の認知を正当化した。亜種mongolicus・・・。
ということですが、ここで参考にできるのは上面が薄いということだけです。
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どうやら最北西の地域に小柄で背の薄い個体群が存在するのは確かなようですが、たとえば“OLSEN GULLS” による、初列の黒部分が多いとか冬場に頭部の斑が少なくより白いといったことはタイミルの特徴とだぶっているため、混同してしまっているという可能性もありそうで、なんとも信頼性が怪しい情報のように思えてしまうのです。ただ、経度的にユーラシア大陸の中央部のカモメたち、heuglini、barabensis、mongolicus、そして canus heinei など初列の白が少なく黒部分が広くなる、また胸から上の褐色斑が少なくなるという傾向があるようなので、それらの特徴は共通して持っている可能性はありそうですが、より北方の寒い地域となった場合にそのあたりがどう変化するのかということもあるとは思うのです。
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この“birulai” という存在。
なんとか情報として使えるのは小柄で背の色が薄い、ということだけのようで、気になりつつもどうにも不確かな存在なのです。“taimyrensis” のなかで比較的背の色が薄い個体群を“birulai” と言っているのか、そうではなく、平均的で割と一様な背の色のvegae たちよりも、背が薄い個体郡のことを言っているのか? 仮に後者であるならば、そして“birulai” の繁殖域が“OLSEN GULLS” に書いてあるような地域であるならば、今やよく目にするようになった“taimyrensis” よりも日本にはたくさん来ていておかしくないはずなのです。小柄で背が薄く、頭部の褐色斑が少なくて白っぽい個体がもっと見れるはずではありませんか。
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というところで、自分がこの“birulai” の存在を気にし始めたのは、そんなに数がいるわけでもないのですが、見つけた背の色の薄い正体不明の鳥たちに、小柄で後頸や胸から上の褐色斑が濃いというか多いという共通の特徴らしきものがあるのではないだろうか!と思ったのがきっかけなのです。しかし、胸から上の褐色斑が多いというのは、“OLSEN GULLS” の言っている特徴とは相反する部分ではあるのです。しかしながら、繁殖地での観察ということであれば、越冬地の観察におけるよりも、胸から上の褐色斑は薄いかほとんど無くなっている可能性ということも考えられるのではないでしょうか。付け加えると、すでに白くなっているvegae たちの個体が多くなってきている3月の後半においても褐色斑が濃いということを考えると、タイミル同様に換羽時期にずれがあるということも特徴としてあるのかもしれません。
はたして“birulai” とは有効な個体群なのか?
背の薄い個体郡が実在するならば、その特徴とはどういったものなのか?
このお堀に来ている背が薄い個体たちは何者で、そしていったいどこから来ているのでしょうか?
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と、まぁ、このページではそんな“birulai” の存在を思考の端っこにひっかけてちょっと気にしつつ、見つけた時にはわくわくさせてくれた、私的に正体が突き止められず悩ましい背の薄いカモメたちを全てピックアップしていくつもりです。そのなかにはハイブリッドだとわかっている個体も含めつつ・・・。まっ、たまに全く背の薄さとは関係のない内容も入ってくるかもしれませんが。ご意見や思ったことなど、各ページにコメント欄がありますから、お気楽にコメントなどくださるとありがたく思うのであります。
Post:2018/07/11 17:17 | field:Imperial Palace Hibiya moat | comment(0)